なぜ、LTVをざっくりでも数値化すべきなのか?
判断基準がないと、施策の成否が見えなくなる
マーケティングや営業施策において、最も避けたいのが「効果があるのかどうかが判断できない」状態です。例えば、ある広告経由で1件のリードが獲得できたとしても、その顧客が最終的にどれだけの売上に寄与するのかが分からなければ、費用対効果を測れません。
ここで必要になるのが、LTV(顧客生涯価値:Life Time Value)という視点です。LTVは、1人の顧客が自社にもたらす平均的な収益の見積もり値。たとえざっくりでも「1件あたり〇〇円くらいの価値がある」と見えるようになれば、その顧客を得るためにいくらまでコストをかけて良いのか、判断がしやすくなります。
たとえば、LTVが100万円であれば、獲得単価が20万円かかっても黒字になる可能性がありますが、LTVが30万円なら明らかに採算が合いません。このように、LTVは施策の是非を判断する「ものさし」となるのです。
「計算できないから動けない」を回避するために
実際に多くの中小BtoB企業で、
「LTVが分からないから、広告費をどう決めたら良いか分からない」
「とりあえず最低コストでやっておくか…」
という場面に直面しているのではないでしょうか。
しかし、LTVは「厳密に出すもの」ではなく、「今わかる情報で仮に出す」ものでも十分役立ちます。重要なのは、完璧な数字を出すことではなく、目安を持って打ち手を前に進めることです。
しかもLTVは、仮の数字でも営業・経営チームと「このくらいの顧客価値がありそうだね」と会話するきっかけにもなります。
つまり、行動と意思決定を前に進めるための共通言語として機能するわけです。
「マーケティングが営業の売上にどう貢献するか」を説明するうえでも、LTVという数字はとても有効です。
単なるリード数ではなく、「1件の顧客が最終的にどれだけの価値を生むのか」を見える化することで、マーケと営業の連携強化にもつながります。
BtoBにおけるLTVの基本式と考え方
LTVは「単価 × 契約期間」──ただし、単位を揃えることが鉄則
LTV(顧客生涯価値)を見積もる際に重要なのは、「累計でいくらの売上をもたらしてくれるか」を把握することです。基本の考え方は非常にシンプルで、
LTV = 顧客単価 × 契約期間
という式で求められます。
ここで重要なのが、単価と契約期間の単位を合わせるという点です。
例えば、月額課金サービスを提供している場合、「月単価 × 契約月数」で計算するとスムーズかもしれません。逆に、年額契約が主流なら「年単価 × 年数」となります。一括請求のサービスであれば、「単価×回数」がLTVです。
契約形態 | LTVの算出方法 | 例 |
---|---|---|
月額課金 | 月単価 × 契約月数 | 3万円 × 24ヶ月 = 72万円 |
年額契約 | 年単価 × 契約年数 | 80万円 × 3年 = 240万円 |
一括請求 | 1案件の単価 × 回数 | 150万円 × 4回 = 600万円 |
このように、「どのスパンで顧客とお金のやり取りが発生しているか」をまず確認し、その単位でLTVを見積もることが、正しい試算の第一歩になります。
BtoBならではの特徴:単価が高く、継続も長い傾向
BtoB領域においては、BtoCとは異なる特徴がいくつかあります。これらを踏まえることで、より現実的なLTVの考え方ができるようになります。
単価のばらつきが大きい
BtoB商材は、契約の規模や顧客の業種・業態によって単価が大きく異なります。10万円の案件もあれば、同じ商品で500万円に化けることもあるため、「平均値」や「中央値」をとって試算するのが現実的です。
さらに、「売上ベース」ではなく「粗利ベース」で考えると、より戦略的な判断がしやすくなります。たとえば、売上が大きくても利益が薄い顧客は、本当に優先すべきかどうかを見直す材料にもなります。
継続期間が長い
BtoBは一度導入されると長期間にわたって利用されることが多く、自然とLTVも高くなりがちです。たとえばSaaSや業務委託契約、保守サービスなどでは、契約が2年・3年と続くのが一般的です。
その一方で、プロジェクト型やスポット案件型の商材では、取引が1回きりになりやすく、継続性が見込めないこともあります。その場合は「再発注率」や「過去の再購入実績」を参考にしながら、複数回の取引を仮定してLTVを考えるアプローチが有効です。
LTVを適切に設計することで、「どの顧客層が営業とっても本当に熱いのか」が見えてきます。これは、マーケティングが売上を生む仕組みとして機能するための土台でもあります。
自社のLTVを「現実的に」見積もる方法
平均顧客単価の出し方:受注実績 × 粗利ベースで考える
顧客単価は、これまでの受注実績をもとに、「平均的に1社からいくらの収益が得られているか?」を出すのが基本です。
ポイントは、売上金額ではなく「粗利ベース」で見ること。なぜなら、LTVはマーケティング投資や営業人件費をかけて良い「原資」を示すものなので、利益の出ない取引をカウントしても意味がないからです。
実務での計算ステップ
- 過去1年〜2年分の受注データを抽出
- 各案件の売上金額から原価を引き、粗利額を算出
- 顧客単位で粗利をまとめ、平均を取る
例)
10社分の受注で、合計粗利が1,200万円 → 平均顧客単価は 120万円
このとき、特別に大きな案件があった場合は、中央値で見るなど、極端な値に引っ張られない工夫も有効です。
継続年数の出し方:契約期間/解約率から逆算する
契約期間から直接出す(実績ありの場合)
定期契約モデルで、過去の契約年数がある程度見えている場合は、契約開始日〜解約日(または継続中)をもとに平均契約期間を算出できます。
解約率から逆算する(継続中が多い場合)
平均継続年数 ≒ 1 ÷ 年間解約率
例)
解約率が年10% → 平均継続年数は「1 ÷ 0.1 = 10年」
まだ実績がない場合の仮定モデルの作り方
- 類似サービスや競合の価格帯を参考にする
- 社内の営業メンバーにヒアリングして、「平均値の感覚」を得る
- 仮定にした根拠を明記しておく
仮に置いた数字であっても、「このモデルだとLTVは100万円前後になりそう」という試算があるだけで、営業や経営層との会話が具体的になります。
「マーケの成果を売上にどうつなげるか」を共に考える入口になるという点で、LTVの見積もりは非常に価値があります。
注意点:LTVは「一つの正解」ではなく、判断の土台
細かく精度を追うより、定期的に見直すことが大切
以下のような理由で、LTVは常に変動します
- 単価が上下する(値引きや単価アップなど)
- 解約率や契約期間が変わる
- 追加サービスのアップセル・クロスセルがある
- 収益構造が変化する(外注比率、原価率 など)
経営・営業チームと共通認識を持てる状態が理想
LTVはマーケティング部門だけが使う指標ではありません。本来は「経営・営業・マーケティングで共通認識を持つためのツール」です。
精密さを求めるよりも、「このくらいのLTVがあるから、この打ち手は意味がある」と説明できることのほうが、営業・経営と共通言語を持つうえで圧倒的に実用的です。マーケティングが売上に貢献する道筋を示すうえでも、LTVは土台となる対話の軸といえるでしょう。
LTVから逆算する「許容コスト」の考え方
LTVの見積もりができれば、そこから逆算で許容CPA(顧客獲得単価)やマーケティング予算の上限を考えることができます。
次回の記事では、以下のようなトピックを取り上げる予定です
- LTVから許容CPAを逆算する方法
- BtoBにおける費用対効果の考え方
- 「かけすぎ・ケチりすぎ」にならない判断軸のつくり方
- 実際のマーケティング施策とどう紐づけるか
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